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東京地方裁判所八王子支部 昭和57年(ワ)985号 判決

原告 平本桂樹

〈ほか一一名〉

右原告ら訴訟代理人弁護士 室田景幸

被告 加藤哲

〈ほか一四名〉

右被告ら訴訟代理人弁護士 山口広

同 海渡雄一

主文

一  給付請求

1  被告加藤哲は原告平本桂樹に対し、金七万四、一八三円とこれに対する昭和五七年九月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告関右京は原告八木久一に対し、金四五万三、三二三円とこれに対する昭和五九年八月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告今井一男は原告八木強一に対し、金一一万九、一三九円とこれに対する昭和五八年八月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告髙橋伸章は原告市川勇に対し、金六万〇、三〇〇円とこれに対する昭和五八年八月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告藤川好明は原告平本利夫に対し、金三六万一、五〇〇円とこれに対する昭和六二年四月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

6  被告小西健次郎は原告鴨志田裕に対し、金二九万〇、四六〇円とこれに対する昭和六二年四月一三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

7  被告萩原一男は原告市川弘治に対し、金三二万一、七七三円とこれに対する昭和六二年八月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

8  被告吉良公博は原告八木久一に対し、金四万八、九六〇円とこれに対する昭和五六年六月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

9  被告原勇は原告鴨志田裕に対し、金七万二、二六九円とこれに対する昭和五六年七月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

10  被告稲山正人は原告平本桂樹に対し、金三八万五、二〇〇円と内金七万八、〇〇〇円に対する昭和五七年五月六日から、内金三〇万七、二〇〇円に対する昭和六二年九月六日から、各支払いずみまで年一割の割合による金員を支払え。

11  被告矢口仁は原告広瀬幸作に対し、被告田中伸尚は原告八木正雄に対し、被告山岡幸男は原告鈴木博徳に対し、被告坂上公友は原告金子伊平に対し、被告石垣孫誠は原告八木忠良に対し、いずれも金四六万一、〇〇〇円と内金九万六、二〇〇円に対する昭和五七年五月六日から内金三六万四、八〇〇円に対する昭和六二年九月六日から、各支払いずみまで年一割の割合による金員を支払え。

二  確認請求

1  原告平本桂樹と被告稲山正人との間において、別紙物件目録(二)記載の建物につき、昭和五五年四月一日から昭和五七年五月三一日までの賃料が一か月金四万六、九〇〇円、同年六月一日から昭和六〇年七月三一日までの賃料が一か月金四万八、七〇〇円であることを確認する。

2  原告広瀬幸作と被告矢口仁との間において、別紙物件目録(六)記載の建物につき、原告鈴木博徳と被告山岡幸男との間において、別紙物件目録(九)記載の建物につき、いずれも昭和五五年四月一日から昭和五七年五月三一日までの賃料が一か月金五万六、二〇〇円、昭和五七年六月一日から昭和六〇年七月三一日までの賃料が一か月金五万八、二〇〇円であることを確認する。

3  原告八木正雄と被告田中伸尚との間において、別紙物件目録(七)記載の建物につき、原告金子伊平と被告坂上公友との間において、別紙物件目録(一〇)記載の建物につき、原告八木忠良と被告石垣孫誠との間において、別紙物件目録(一三)記載の建物につき、いずれも昭和五五年四月一日から昭和五七年五月三一日までの賃料が一か月金五万六、七〇〇円、昭和五七年六月一日から昭和六〇年七月三一日までの賃料が一か月金五万八、七〇〇円であることを確認する。

三  原告らのその余の各請求は、いずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  給付請求

1  被告加藤哲は原告平本桂樹に対し、金八万六、四三〇円とこれに対する昭和五七年九月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告関右京は原告八木久一に対し、金四七万二、六〇〇円とこれに対する昭和五九年八月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告今井一男は原告八木強一に対し、金一三万四、七三〇円とこれに対する昭和五八年八月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告髙橋伸章は原告市川勇に対し、金七万五、八〇〇円とこれに対する昭和五八年八月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5  被告藤川好明は原告平本利夫に対し、金三九万〇、二〇〇円とこれに対する昭和六二年四月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

6  被告小西健次郎は原告鴨志田裕に対し、金三一万九、二八〇円とこれに対する昭和六二年四月一三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

7  被告萩原一男は原告市川弘治に対し、金三五万一、八二八円とこれに対する昭和六二年八月一七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

8  被告吉良公博は原告八木久一に対し、金五万六、九〇〇円とこれに対する昭和五六年六月二五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

9  被告原勇は原告鴨志田裕に対し、金八万〇、三四〇円とこれに対する昭和五六年七月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

10  被告稲山正人は原告平本桂樹に対し、金四一万五、七〇〇円と内金七万八、〇〇〇円に対する昭和五七年五月六日から、内金三〇万七、二〇〇円に対する昭和六二年九月六日から、各支払いずみまで年一割の割合による金員及び内金三万〇、五〇〇円に対する昭和六二年九月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

11  被告矢口仁は原告広瀬幸作に対し、被告田中伸尚は原告八木正雄に対し、被告山岡幸男は原告鈴木博徳に対し、被告坂上公友は原告金子伊平に対し、被告石垣孫誠は原告八木忠良に対し、いずれも金四九万一、五〇〇円と内金九万六二〇〇円に対する昭和五七年五月六日から、内金三六万四、八〇〇円に対する昭和六二年九月六日から各支払いずみまで年一割の割合による金員及び内金三万〇、五〇〇円に対する昭和六二年九月六日から支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  確認請求

1  主文二項1、2、3記載のとおりであるから、これを引用する。

2  前項記載の各原告と被告との間において、それぞれの建物につき、昭和五五年一月一日以降の共益費が、一か月につき金二、〇〇〇円であることを確認する。

三  訴訟費用の申立

訴訟費用は、被告らの負担とする。

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求は、いずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第三請求の原因

一  原告ら土地所有者は、各所有する土地上に住宅金融公庫の融資を受けて、別紙物件目録記載の建物(以下本件各建物という。)を含む鉄筋コンクリート造り陸屋根四階建の建物二一棟、合計五一二戸の共同住宅(以下ポプラケ丘コープという。)を建築所有し、右共同住宅を管理するため、ポプラケ丘住宅管理組合(以下管理組合という。)を設立し、管理組合は、町田市南農業協同組合(以下町田南農協という。)に対して右共同住宅の管理を委託している。

二  原告らは、町田市南農協を介して、本件各建物を、それぞれ別表記載の契約日に、別表記載の賃料及び共益費の額を定めて、被告らに対して貸与している。

三  ポプラケ丘コープにおける賃貸人と賃借人との間に締結された賃貸借契約(以下本件契約という。)一〇条によれば、ポプラケ丘コープに入居している賃借人らが共同して使用する部分ないし施設を、維持管理するため、賃借人は賃貸人の定める額を共益費として納付し、賃貸人はその収支を年一回報告し、不足を生じたときは不足額を賃借人が支払い、余剰が生じたときは次年度に繰り越す旨定められている。

四  管理組合が、昭和五四年度における共益費の収支決算を行ったところ、ポプラケ丘コープ全体で金二六六万円の不足が生じたので、不足額のうち金一五〇万円を、原告らを含む賃貸人らが負担し、残額金一一六万円を同年度に入居していた被告らを含む賃借人に均等に負担してもらうことにしたが、その一戸当りの分担額は金二、六〇〇円となった。

五  ところで、前示のとおり、ポプラケ丘コープにおける昭和五四年度の共益費の収支決算では、金二六六万円の不足額が生じており、次年度以降も同様に不足額の生ずることが確実に予想されるから、このような場合、本件契約一〇条の趣旨に照らし、賃貸人たる原告らは賃借人たる被告らに対し、将来に向かって、共益費の増額を請求することができるのであり、仮にそうでないとしても、借家法七条の類推適用により、原告らに共益費の増額請求権があるところ、管理組合は、昭和五五年三月二六日付で被告らを含むポプラケ丘コープの賃借人全員に対し、同年一月一日以降の共益費の額を一戸当り一か月金二、〇〇〇円に増額する旨通知した。

六  本件契約六条によれば、ポプラケ丘コープにおける賃料算出の基礎に増減があったときは、賃貸人は、住宅金融公庫の承認を得たうえ、賃借人らに通知することによって、賃料の変更ができる旨定められている。

七  原告らは、昭和五五年二月五日付で住宅金融公庫の承認を得たうえ、管理組合を介して、被告らに対し、同年三月二六日付をもって、同年四月一日以降における本件各建物に対する賃料を、別表記載のとおり、面積六六・七七平方メートルの住宅につき一か月金三、七〇〇円、面積五五・一二平方メートルの住宅につき一か月金三、〇〇〇円を増額する旨通知した。

八  本件契約一八条によれば、賃借人が本件契約を解約しようとするときは、退去日の三〇日前までに退去届を賃貸人に提出する旨定められているところ、被告吉良公博は昭和五六年五月二五日、同原勇は同年六月七日に退去届を提出して解約を申入れたので、被告吉良につき同年六月二四日同原につき同年七月六日に解約の効力が生じた。

九  原告らは、昭和五七年二月二五日付で住宅金融公庫の承認を得たうえ、管理組合を介して、被告らに対して、同年五月一七日をもって、同年六月一日以降の本件各建物の賃料を別表記載のとおり、面積六六・七七平方メートルの住宅につき一戸当り一か月金二、〇〇〇円、面積五五・一二平方メートルの住宅につき一戸当り一か月金一、八〇〇円を増額する旨通知した。

一〇  原告が前記二回にわたって賃料を増額した理由は、賃料算定の基礎となる地価の上昇とこれに伴う租税の増額並びに物価や家賃の高騰によって、当初定めた賃料の額が不相当になったことにある。

一一  被告加藤哲ほか六名は、本訴提起後別表記載の各退去日に本件各建物から退去し、同表記載の退去処理日に賃貸借契約解除の効力を生じた。

一二  被告らは、原告らの前記賃料の増額部分及び共益費の不足額と増額部分の請求に応ぜず、別表B、C、D欄記載の差額部分を支払わないばかりか、前記退去した被告らについては別表E、F欄記載のとおり賃料及び共益費を支払っていない。

一三  前記退去した被告らについては、別表A欄記載のとおり敷金を差入れているので、前記未払賃料及び共益費の支払いに充当した。

一四  よって、被告らに対して請求の趣旨記載のとおり、未払賃料及び共益費(別表請求金額欄記載の金額)の支払いとこれに対する支払日以降支払いずみに至るまで借家法ないし民法所定の遅延損害金の支払いを求めるとともに現在本件各建物に入居している被告らに対し、請求の趣旨二項記載のとおり賃料及び共益費の増額についての確認を求める。

第四請求の原因に対する認否

一  第一、二、三項の各事実は、いずれも認める。

二  第四項は、否認する。

三  第五項のうち、主張のとおり共益費増額の通知がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  第六項のうち、住宅金融公庫の承認を要する点は認め、その余は争う。

五  第七項のうち、賃料増額の通知がなされたことは認め、その余は知らない。

六  第八項のうち、被告らが退去したことを認め、その余は争う。

七  第九項のうち、賃料増額の通知がなされたことは認め、その余は知らない。

八  第一〇項は、否認する。

第五被告らの主張

一  昭和五四年度における共益費の収支決算において、不足額の生じたのは、共益費を管理していた町田南農協が共益費として支出すべきでない左記の費用を支出していたことによるもので、原告らの共益費の不足額請求は失当であるから棄却されるべきである。

1  高架水槽架台塗装費(四三万円)

2  フェンス取替工事費(一〇六万円)

3  台風災害植栽手入費(一九万七、五〇〇円)

4  水道修理代(一一万七、四六〇円)

5  漏水修理費(八万七、一〇〇円)

6  浄化槽廃棄汚泥処理費(二〇二万円)

7  給水施設管理費(八〇万円)

8  団地運営管理費(二八〇万円)

二  原告らは、昭和五五年一月一日以降の共益費の増額を請求しているが、本件契約上共益費増減に関する特約はないから、原告らに共益費を一方的に増額する権利はなく、また共益費につき、その使途を限定しかつ実費分担の性格を持つ本件では、借家法七条の類推適用により、共益費の増額請求を認めることも相当ではなく、共益費の増額を求める原告らの請求は、主張自体失当であって棄却されるべきである。

三  仮に、原告らに共益費の増額請求権があるとしても、昭和五五年度以降における共益費支出の実態からみて、団地運営管理費、給水施設管理費など、明らかに不相当な費目が支出されていながら、昭和五九年度の収支決算では金二八九万円余の剰余金を計上しており、共益費を増額する必要はまったくない。

四  原告らの本件賃料増額の理由は、次の諸事情にてらして存在しない。

1  管理組合からポプラケ丘コープの管理を委託され、入居者の募集事務を担当していた町田南農協の職員は、被告らが本件各建物に入居するに当り、賃料の値上げがないから、傾斜家賃である公団住宅に比較して将来の賃料は割安になると言って被告らの入居を勧誘した。

2  ポプラケ丘コープは、住宅金融公庫による低利の融資によって建築されたもので、賃貸人の資格や賃料の額についても、一般民間の借家に比較して厳重な法規制に服しており(住宅金融公庫法三五条)、住宅の建設に必要な費用、利息、公課、管理費、修繕費、火災保険料、その他必要な費用を参酌して主務大臣が定める額を超えて、家賃の額を契約し、受領することはできないことになっている。

3  ポプラケ丘コープは、昭和五〇年ころ建築されてから現在に至るまで、被告らの居住部分を含む建物全体について、修繕が行われていないため、壁紙の剥離、カビ、天井の汚点、腐敗、天井板の脱落、扉や汚水管の錆、浴室壁の脱落、コーキング、シーリングの腐敗、洗面所壁の腐敗など居住環境は著しく劣悪化しているのに、原告ら賃貸人はこれらを放置し、賃貸人としての義務を履行していない。

4  ポプラケ丘コープは、最寄駅に至るバスの運行回数が少なく、しかも朝の出勤時には交通渋滞がひどいため、ほとんどの乗客は駅手前で下車して約一〇分位歩いて駅に到着する状態であって、交通の便は入居当初より悪化している。

五  鑑定人宮内裕の鑑定結果は、ポプラケ丘コープが、低廉な住宅の供給を目的とする国の住宅政策に基づき設立された住宅金融公庫の低利融資によって建設されたものであるとの、基本的な立脚点を忘れたものであるうえ、次のような不当な点もあり、適正賃料を大幅に上廻るものである。

1  差額配分法による賃料について

(一) 本件契約締結にあたり、当事者間において、賃料の増額をしない旨の合意が成立しているのに、これを無視している。

(二) 差額配分法における配分割合及び土地の期待利回りの設定がずさんである。

(三) 交通接近性、建物の材料及び施工の程度、損傷状況など居住条件の考慮が不十分である。

(四) 建物の再調達原価の認定が工事費実額より二・五パーセントも高い。

(五) 有料駐車場敷地を、建物敷地から除外していない。

(六) 建物の維持管理費を、建物基礎価格の二・五パーセントと推定しているのは過大である。

(七) 建物の損害保険料を、建物基礎価格の〇・一五パーセントと推定しているが、実額と相違している。

2  スライド法による賃料について

本件契約締結当時における賃料は、かなり高かったが、賃上げがなく将来にわたって安定していることをセールスポイントとして入居者を募集したという経緯からすると、一般的指数による変動率一三%を採用したのは誤っている。

3  利回り法による賃料について

新規設定時の合意利回り率とされる二・六二パーセントを建物、土地の現価にそのまま乗じ、これに必要経費を加えて、利回り賃料を算定しているが、家賃は土地の価格の上昇に必ずしも追随するものではなく、地価が継続的に上昇する局面では、家賃算定の利回り率も低減して行く傾向が顕著であるのに(継続賃料の粘着性)、これを考慮に入れていない。

4  比準法による賃料について

比準対象として近隣地域の民間借家及び本件と同じ町田南農協が経営している賃貸事例が選択されており、被告らが比準対象とするよう主張していた公団、公社の住宅が、その対象から除外されている。

第六証拠《省略》

理由

一  請求の原因第一、二、三項の各事実は、当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によると、管理組合が作成したポプラケ丘コープの昭和五四年における共益費の収支状況は、別紙共益費運用報告書記載のとおりであって、金二六六万七、〇三八円の不足額が生じたため、管理組合では、右不足額を翌年度に繰越したうえ、内金一五四万一、二三八円を賃貸人全員が住宅一戸当り金三、〇〇〇円宛負担し、残金一一二万五、八〇〇円を被告らを含む賃借人らに一戸当り金二、六〇〇円宛負担させることに決定したことが認められる。

三  被告らは、管理組合の行った前記共益費の支出が不当であるとして、不足額の存在を争うので、以下共益費負担の法的性格と範囲について検討を加える。

1  ポプラケ丘コープは、前示のように住宅金融公庫の融資によって建築されたものであるところ、《証拠省略》によると、住宅金融公庫では、公庫融資によって建設された賃貸住宅の賃貸人に対し、住宅の良好な環境を維持し、入居者に対し住宅及び施設の利用を保全するため、団地内の共用部分及び共用施設の維持運営に要する費用を共益費として入居者から徴収し、賃貸人の責任において団地の環境整備を行うよう指導することとし、共益費の使途について具体的な支出費目を掲げてその運用基準を示し、社会通念上妥当なものに限る旨付加していることが認められる。

2  《証拠省略》によると、ポプラケ丘コープにおける本件契約一〇条一項には、共益費の支出費目として、(1)共同して使用する電気及び水道の使用料、(2)塵介、汚物の処理及び浄化槽の維持管理に要する費用、(3)共同に使用する電球等の取替えに要する費用、(4)消火器、火災報知器等の維持管理に要する費用、(5)団地内の道路、植樹、花壇、砂場及び芝生その他乙(賃借人)が共同して使用又は利益を受けるものについての費用、(6)共同の使用人をおくときは、その賃金、を掲げていることが認められるが、これは前示住宅金融公庫の運用基準に従ったものと推測される。

3  以上に認定した共益費の支出費目と清算条項及び公庫の運用基準などに照らすと、共益費とは、本件のような集団(共同)住宅において、その賃借人らが使用する住宅及びその敷地上にある共用部分ないし共用施設(以下共用物という。)の維持運営に要する費用を指すものであり、これらの費用にあてるため、賃借人が家賃とは別にその資金を拠出し、賃貸人の責任において、その資金を共用物の維持運営のため支出するという性格のものであることは明らかである。

4  そして、共益費の支出範囲については、本件契約一〇条一項の(1)ないし(6)に掲げる費目に限定されるものと解されるところ、右費目のうち、(1)、(3)、(6)及び(2)のうち塵介、汚物の処理費用については、比較的その範囲が明確であるものの、その余の費目については必ずしもその範囲が明らかであるとは言い難い。ところで、共用物の維持管理については、賃貸人もその責任を負担しているところであるから、共益費の支出範囲から、これら賃貸人の負担に帰すべき部分を除外すべきものと解される。

5  このように解すると、共益費の支出範囲は、主として共用物利用上直接必要な共用物の点検、手入れ、清掃、消毒、照明、消火、運転、作動などに要する水、電力、ガス、薬剤、電灯、器材、労務など共用物の利用によって消費する物の費用や破損する物の補給に要する費用及び人件費などであって、賃貸人の負担に帰すべき維持管理費部分を除いたものを原則とするが、これに限らず良好な住宅環境を増進するため、賃貸人の義務に属しない共用施設などを新設ないし改善するため、特約又は賃借人の総意に基づいて、共益費の使途を拡張することは、もちろん可能であると解される。

四  以上の観点から、ポプラケ丘コープにおける昭和五四年度の共益費支出費目の可否について、以下検討を加える。

1  高架水槽架台塗装費(四三万円)

《証拠省略》によれば、高架水槽及びその架台は、建物の屋上に設置されたもので賃貸人の所有に属するものであることが認められる。高架水槽は高層住宅において、水道の水圧を上げて各戸への配水を円滑ならしめるものであるから、高層住宅に必須な設備ともいうべきものであるが、その使用によって塗装面を著しく消耗するものではないから、塗装費用をもって共用物使用によって直接生じた費用とは言いがたく、むしろ賃貸人の負担すべき費用と解されるので、これを共益費から支出するのは相当ではないと考える。

2  フェンス取替工事費(一〇六万円)

《証拠省略》によると、本件フェンスは、ポプラケ丘コープの第一三、一四、一五棟付近の道路沿いに設置されたガードレールのような金属製の柵で、人や車両が住宅団地内へ侵入するのを防止するため設置されたものであることが認められる。宮本証言によれば、本件フェンスは、付近の入居者の要求によって設置されたものであることが認められる。団地内の道路の両側に設置される柵は、その設置費用が低額なものであるとか、共益費を拠出している賃借人の同意があるなど特段の事情がないかぎり、その設置費用を共益費から支出するのは妥当でないと解されるところ、本件では右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

3  団地運営管理費(二八〇万円)

《証拠省略》によると、管理組合では、町田南農協に対して、ポプラケ丘コープにおける共益費の収支と敷地内の植物を含む共用物の維持管理の業務(ただし、共用物を直接清掃、手入れ、修理するなどの作業は含まない。)を委託し、その費用として共益費収入の二五ないし二八パーセントの金額を支払う旨約し、町田南農協が管理組合(家主)に代わって共益費の収支とその管理業務を行い、昭和五四年度では年間二八〇万円を団地運営管理費名目で共益費から支出し、町田南農協に支払っていることが認められる。

ところで、共益費の収支及び共用物の管理業務(共用物を直接清掃、手入れ、修理するなどの作業を含まない。)は、共益費を徴収している賃貸人の責任で行うべきことは、前示共益費の性格及び住宅金融公庫の共益費運用基準にてらして明らかであり、その費用についても、当事者間に特別な定めのない本件では、賃貸人において負担すべきものと解するのが相当であって、賃貸人が賃借人の同意もなく他人にこれらの事務を委託するとともに、その費用を共益費から支出することは許されないものと考えられる。

五  以上の認定事実によれば、高架水槽架台塗装費四三万円、フェンス取替工事費一〇六万円、団地運営管理費二八〇万円の合計四二九万円を共益費から支出したのは失当であるから、本件ポプラケ丘コープの昭和五四年度における共益費の収支決算上の不足額は、賃借人である被告らに負担させることはできないものというべきである。従って、原告らの共益費不足額の請求は失当として棄却を免れない。

六  請求の原因第五項のとおり、共益費を月額二、〇〇〇円に増額する旨の通知がなされたことは、当事者間に争いがない。被告らは昭和五五年度以降における共益費支出の実態をみても、不相当な支出があり、共益費を増額する必要性はないとして、原告らの共益費増額の請求を争うので、以下この点について検討を加える。《証拠省略》によると、ポプラケ丘コープにおける共益費から団地管理費として、昭和五五年度は二八〇万円、昭和五六年度以降五九年度まで毎年三〇〇万円宛支出していることが認められる。しかし、これらは前示のとおり共益費の収支及び共用物管理上の事務費として支出されたもので、共益費から支出すべきものでないと解されるところ、右不当支出額はポプラケ丘コープにおける共益費の増額部分(三〇〇円×一二か月×五一二戸)一八四万円余を越えるものであるから、これらの支出をしなければ、共益費収支において不足額の生じないことは明らかである。以上によると、その余の点を判断するまでもなく、共益費の増額を前提として、その支払義務の確認及び増額部分の給付を求める原告らの請求は失当として棄却を免れない。

七  ポプラケ丘コープにおける賃料を変更しようとするときは、住宅金融公庫の承認を要すること及び請求の原因第七、九項記載のとおり、賃料の増額通知がなされたことは、当事者間に争いがない。《証拠省略》によれば、ポプラケ丘コープにおける賃料の値上げについては、住宅の維持管理費、公租公課、損害保険料、その他家賃の算出基礎に増減があったとき、住宅金融公庫の承認をえたうえ、賃借人に通知することによって変更の効力が生ずる旨約されていること、原告らは請求の原因第七、九項記載のとおり、住宅金融公庫の承認を得たうえ、その承認額の範囲内で、賃料の増額通知をしたことが認められる。原告らは、家賃の算出の基礎となる地価の変動とこれに伴う租税の増額並びに物価や家賃の高騰によって、当初設定した家賃が不相当になった旨主張するので検討を加える。

八  《証拠省略》によると、ポプラケ丘コープの敷地につき、昭和五四年又は五五年度及び昭和五七年度において、固定資産評価額が改訂増額されていること、東京都の住宅地における標準地価は、一平方メートル当り、昭和五〇年が一〇万四、八〇〇円であったところ、年々上昇して昭和五六年には二二万五、二〇〇円になっていること、東京都における共同住宅の三・三平方メートル当り平均家賃は、昭和五〇年に三、二〇六円であったものが、年々上昇し昭和五六年には四、九三九円となっていること、消費者物価指数は、全国総合で昭和五〇年に七二・九であったものが、昭和五五年では一〇〇、昭和五七年では一〇七・七になっていること、常用労働者の賃金指数は、調査産業計で昭和五〇年に六八・三であったものが、昭和五五年では一〇〇、昭和五七年では一一〇となっていること、以上の各事実が認められ、原告ら主張のとおり、賃料算出の基礎に変更があったことが認められる。

九  被告らは、本件賃料増額を相当としない諸事情を主張するが、以下に説示するとおり、いずれもその理由がなく採用できない。

1  被告らは、本件各建物を賃借するにあたって、管理組合からポプラケ丘コープの管理を委託されて入居者の募集を担当していた町田南農協の職員が、入居者募集にあたり、被告らに対し、「賃料の値上げはないから、傾斜家賃である公団住宅と比較して将来安くなる。」と言って入居を勧誘した旨主張し、被告稲山正人は右主張に沿う供述をしている。しかし、家賃の値上げをしない旨約束することは通常考えられないので、右供述はたやすく措信しがたい。もっとも、《証拠省略》によると、ポプラケ丘コープの入居者募集に当って、「家賃も安く傾斜家賃ではないので、マイホーム貯金も出来そうです。」と書いたパンフレットを配付していることが認められるところ、傾斜家賃というのは、賃借人の負担能力を考慮し、当初家賃を低く設定し、逐次値上げを予定し、適正家賃へ導く場合をいい、主として公団住宅などで採用されているものであることを考えると、本件では傾斜家賃のように家賃の値上げが予定されていない趣旨が強調されたであろうことは推測するに難くないが、これをもって家賃値上げをしない旨確約したと認めることはできず、ほかに被告らの前記主張を認めるに足りる証拠はない。

2  《証拠省略》によると、被告ら主張のとおり、ポプラケ丘コープは、建築資金の約七割を住宅金融公庫による低利の融資によって建築されたものであることが認められる。住宅金融公庫法三五条によれば、公庫融資による賃貸住宅については、賃借人の資格、選定方法、その他の賃貸条件を規制し、建築費等を参酌して主務大臣の定める額を越える家賃の額を契約し、又は受領してはならないことになっている。《証拠省略》によると、住宅金融公庫では、前記家賃の算定基準を示して、賃貸住宅における家賃の額を規制していることが認められる。

以上によれば、住宅金融公庫の家賃承認額は、前記法規制に基づいて決定されたものと考えられるので、右承認額の範囲内であれば、家賃の増額も許されるものと解される。

3  被告らは、本件各建物について修繕が行われておらず、居住環境が著しく劣悪化している旨主張する。《証拠省略》によると、昭和六〇年一〇月当時におけるポプラケ丘コープの一部の内部状況が、被告ら主張のような状況にあったことが認められる。しかし、右の状況は本件賃料値上時点からかなり経過したときのものであり、又このような損傷は、賃借人の使用上の過失によって生じた可能性も否定できないばかりでなく、この程度の損傷では、いまだ賃借人の使用に著しい支障を与えるものとは言いがたく、原告ら賃貸人において、賃料値上げを不当とする修繕義務の不履行があったものと認めることは困難である。

4  被告らは、本件各建物から最寄駅への交通の便が、入居当時より悪化している旨主張する。《証拠省略》によると、本件住宅地から最寄駅への交通の便が良くないことは認められるが、入居当時と比較して悪化していることを認めるに足る証拠はない。

一〇  以上によれば、原告ら主張のとおり、昭和五五年及び昭和五七年の両年度にわたって賃料増額の事由が存在したものと認めることができるところ、原告らの増額を求めた右両年度の各賃料額は、いずれも住宅金融公庫の承認額の範囲内にあること前示のとおりであり、かつ鑑定人宮内裕の鑑定の結果(以下本件鑑定という。)によると、原告らの本件増額賃料の額は、本件鑑定により算出された各値上時点における相当賃料額の範囲内にあることが認められる。被告らは、本件鑑定の不当性を主張するので、その当否について以下検討する。

1  差額配分法による賃料について

(一)  被告らは、本件賃貸借設定当初における賃料を増額しない旨の合意を無視していると主張するが、そのような合意が成立したことを認めるに足る証拠のないことは、前示のとおりである。

(二)  被告らは、差額の配分割合及び土地の期待利回りの設定がずさんであると主張する。本件鑑定及び証人宮内裕の証言(以下宮内証言という。)によると、土地及び建物の基礎価格にその利回り率を乗じて算出した純賃料に必要経費を加えると経済賃料が算出されるところ、差額配分法では右経済賃料から従前の支払賃料を差引いた残額の二分の一ないし三分の一(配分割合)を家主の取得すべき賃料の増額部分とするのが一般であり、土地の期待利回りは年六パーセントとするのが通常であるが、本件は公庫融資による建物であることを考慮し、配分割合を四分の一とし、土地の期待利回り率を四パーセントに減額して算定していることが認められる。以上の認定事実によれば、本件鑑定における差額配分割合及び期待利回り設定は妥当であって、被告らの主張は理由がない。なお宮内証言中には、土地の還元利回りを四パーセントとするのが間違いだろうとおもう旨の供述部分が見られるが、これは土地の収益価格を算定する場合について述べたものであることは、同供述の前後関係を検討すれば明らかである。

(三)  被告らは、交通接近性、建物の材料及び施工の程度、損傷状況など居住条件の考慮が不十分であると主張するが、本件鑑定によれば、これらの居住条件についても検討されており、これをどの程度考慮するかは、鑑定人の裁量に属するものというべく、これらの裁量について誤りがあったことを認めることはできない。

(四)  被告らは、建物の再調達原価の認定が工事費実額より二・五パーセントも高いと主張し、《証拠省略》によると、右主張の事実を認めることができる。しかし、建築費の実額が判明しない場合には、これを推定するほかなく、その推定額が実額と相違することは避けがたいことであり、その差が著しく大きい場合はともかく、本件における程度の相違をもって、鑑定の結果を不当とするのは相当ではない。

(五)  被告らは、有料駐車場用地を本件住宅敷地から除外していないと主張する。《証拠省略》によると、ポプラケ丘コープの建物敷地には、各棟に一二ないし一三台、合計二七八台を収容する駐車場用地があり、一台分の料金は月額五、〇〇〇円であることが認められる。そして、本件鑑定によると、本件住宅敷地から駐車場用地を除外しないで敷地の基礎価格を算定していることが認められる。しかしながら、宮内証言によると、差額配分法における建物敷地の基礎価格は、平均的なものとしてとらえられており、又共同住宅敷地に駐車場があることは居住者にとって有利な要因となるので、特に駐車場収入を敷地の基礎価格から控除しないのが一般であることが認められるので、右主張は採用できない。

(六)  被告らは、本件住宅の維持管理費を建物基礎価格の二・五パーセントと推定しているのは過大であると主張する。宮内証言によると、住宅の維持管理費は、一般に建物基礎価格の四パーセントとしているが、本件では公庫融資による建物であることを考慮して二・五パーセントに減額していることが認められる。しかし、このような評価上の基準については、鑑定人の裁量に属することであるから、公庫の基準に合致しないからといって、誤りであると断定することはできず、右主張は採用できない。

(七)  被告らは、建物の損害保険料の額を建物基礎価格の〇・一五パーセントと推定しているが実額と異っていると主張する。《証拠省略》によると、本件鑑定における対象建物の損害保険料の年額は一棟当り二万三、一二〇円(一戸当り九六三円余)であることが認められるが、本件鑑定によれば、一戸当りの損害保険料として、五、五四八円を計上していることが認められる。しかし、宮内証言によると、一般に損害保険料の額は建物基礎価格の〇・二パーセントで推計していることが認められるほか、損害保険料については、長期一括払いによる割引制度があることや、地震による損害を付保する場合の料金などを考えると、鑑定評価における推計額が実際の支払保険料の額と合致しないことがあっても、これをもって評価上の誤りであるとするのは相当でない。

2  スライド法による賃料について

被告らは、本件各建物の賃料は、借り受け当初からかなり高く、値上げしないと言って入居者を募集したのに、一般的な指数による変動率一三パーセントを採用したのは誤っていると主張する。本件鑑定によれば、スライド法における変動率一三パーセントは、消費者物価指数や六大都市市街地価格推移指数と比較して著しく低率であるし、又本件各建物の賃料が借り受け当初からかなり高かったことを認めるに足る証拠もないから、被告らの右主張は採用できない。

3  利回り法による賃料について

被告らは、新規設定時の合意利回り率を採用したのは不当であると主張する。本件鑑定によれば、新規設定時(昭和五二年二月二五日)における純賃料の土地建物価格に対する割合により、合意利回り率を求め、これを値上げ時点(昭和五七年六月一日)における土地建物価格に乗じて得た純賃料に必要経費を加算して利回り賃料を試算していることが認められる。しかし、宮内証言によると、本件の新規設定時における利回り率は一般的に認められる総合利回り率を下回るものであること、継続賃料における利回り率が低減するという法則は必ずしも確立したものとは言えないこと、本件鑑定評価に当っても、利回り法だけでなく、差額配分法、スライド法、比準法などによって試算した結果を参酌して評価額を決定していることが認められるから、利回り率を低減しなかったからといって、本件鑑定が不当であるとすることはできない。

4  比準法による賃料について

被告らは、本件鑑定における比準の対象として、近隣地域の民間借家及び本件と同じ町田南農協経営の賃貸事例が選択されており、公団や公社の住宅を除外しているのは不当であると主張する。本件鑑定によれば、主張のような賃貸事例が選択されているが、宮内証言によると、公団や公社住宅の家賃は非常に高いため、比準の対象から除外したことが認められる。なお、《証拠省略》によると、町田市にある公団、公社などの賃貸住宅として、非常に低廉な家賃の調査事例が記載されているが、これらはほとんど建築後一五年以上経過した古い建物に関するものであって、建築後六年で低家賃のものとしては都営成瀬団地のみであり、建築後五年の公団成瀬駅前団地は、交通条件は良いものの家賃が非常に高いものである。これらの調査事例については、賃貸目的、居住及び賃貸条件などを検討したうえでないと、本件鑑定についての反論資料にすることは相当でなく、ほかに被告らの前記主張を認めるに足る証拠はない。

一一  以上によれば、被告ら主張の本件鑑定が不当であるとする主張は採用できない。本件鑑定によれば、本件鑑定は、差額配分法、スライド法、利回り法及び比準法によって算出された試算賃料を基礎とし、これらを総合勘案して本件各建物に対する各値上時における相当賃料を評価算定しており、その基礎的数値や資料の収集、選択の過程において、鑑定結果の相当性について、疑いを抱かせるほどに問題とすべき点のないことが認められるから、その結論は相当として採用することができる。

一二  なお、本件鑑定について付言する。本件鑑定のうち、差額配分法及び利回り法による賃料の算定につき、被告らの主張するように、建物の敷地面積から駐車場敷地を控除し、建物の建築費及び損害保険料を実額によって計算し、実際支払賃料を算定してみると、次のとおりとなる。

(一)  差額配分法による試算賃料

1  土地・建物の基礎価格及び純賃料

ポプラケ丘コープ一号棟の敷地面積一、六五八・二七m2から駐車場敷地一六六・九五m2(被告の主張による。)を差引いた残額一、四九一・三二m2に昭和五七年六月一日値上時点における一平方メートル当りの単価一四万二、〇〇〇円(本件鑑定による。)を乗じて、右一号棟(総面積一、二七四・五二m2)の三〇六号室(ベランダ床面積七・〇八m2を除いた四八・〇四m2)の土地基礎価格を求めると、七九八万二、〇六五円となる。右一号棟の建築費実額は、《証拠省略》によると、一億二、八八二万円であるから、これに本件鑑定による変動率三五%、償却率五五%を乗じて、前記値上時点における三〇六号室の基礎価格を求めると、三六〇万五、二五四円となる。右土地及び建物の基礎価格に、本件鑑定による期待利回り、土地四%、建物七%をそれぞれ乗ずると、合計五七万一、六五〇円となり、これが三〇六号室の純賃料の年額である。算式は次のとおりである。

土地 1491.32m2×142,000円×48.04/1274.52=7,982,065円×0.04=319,283円

建物 12,882万円×135×0.55×48.04/1274.52=3,605,254円×0.07=252,367円

2  必要諸経費

前記建物基礎価格三六〇万五、二五四円を基準として、定額法により耐用年数二七年(本件鑑定による。)の一年分の減価償却費を求めると、一三万三、五二八円となり、本件鑑定による年間二・五%の割合により維持管理費を求めると、九万〇、一三一円となる。前記一号棟の損害保険料は、《証拠省略》によると、二万三、一二〇円であるから、三〇六号室の損害保険料は八七一円となる。前記純賃料五七万一、六五〇円に四%を乗じて、空室等損失相当額を求めると、二万二、八六六円となる。本件鑑定により、三〇六号室の公租公課は、四万七、〇六九円である。以上によると、必要諸経費の総額は、二九万四四六五円となる。

3  差額配分法による試算賃料

前記純賃料五七万一、六五〇円に前記必要諸経費を加えたものから、従前賃料五二万六、八〇〇円(月額四万三、九〇〇円の年額)を差引いて差額三三万九、三一五円を算出し、その四分の一である家主の取り分八万四、八二八円に右従前賃料を加えた六一万一、六二八円が実際支払賃料となり、その一二分の一である五万〇、九六九円が三〇六号室の差額配分法による月額賃料である。

(二)  利回り法による試算賃料

1  土地・建物の基礎価格

前示三〇六号室の建物敷地の基礎価格七九八万二、〇六五円に本件鑑定による変動率一六〇%を乗じて、新規設定時(昭和五一年二月二五日)における右建物敷地の基礎価格を求めると、三〇七万〇、〇二五円となる。前示一号棟の建築費実額一億二、八八二万円から三〇六号室の基礎価格を求めると、四八五万五、五六一円となる。右土地及び建物の基礎価格の合計は七九二万五、五八六円となる。以上の算式は次のとおりである。

土地file_2.jpg1491.32m?x 142, 0007 x 38-44: 982, 06579 x0.0- 319,283

建物file_3.jpg12,88275FAX 195 X0.55 X ogg es 3,605, 25474 x 0.0; 52,3679

2  必要諸経費

前示建物基礎価格四八五万五、五六一円を基準として、本件鑑定により定額法で耐用年数三五年の減価償却費を求めると、一三万八、七三〇円となる。公租公課は本件鑑定により、二万三、五三四円とする。維持管理費は、本件鑑定により前記建物基礎価格に二・五%を乗ずると、一二万一、三八九円となる。損害保険料の実額は、《証拠省略》によると、一号棟につき年額二万五、八四〇円であるから、三〇六号室については、九七四円となる。空室等損失相当額は、当時の支払賃料年額の四%として計算し、二万一、〇七二円とする。以上により、必要諸経費の合計額は、三〇万五、六九九円となる。

3  利回り法による試算賃料

前示三〇六号室の支払賃料年額五二万六、八〇〇円から前示必要諸経費を控除した残額二二万一、一〇一円を、前示土地・建物の基礎価格七九二万五、五八六円で除すると、その商〇・〇二七八九七一が合意利回り率となる。この利回り率を、値上時点である昭和五七年六月一日当時における前示土地・建物の基礎価格合計一、一五八万七、三一九円に乗ずると三二万三、二五四円となり、これに前示必要諸経費二九万四、四六五円を加えた六一万七、七一九円が利回り法による実際支払賃料となり、その月額は五万一、四七六円となる。

一三  以上によれば、駐車場敷地を除外し、かつ建築費及び損害保険料を実額で計算したところによれば、本件鑑定における試算賃料と比較して、差額配分法では一、一〇〇円、利回り法では、一、五二六円低くなっている。そこで、以上により算定した差額配分法(五万〇、九六九円)及び利回り法(五万一、四七六円)による試算賃料と本件鑑定において算定されているスライド法(四万九、六〇七円)及び比準法(五万二、一七八円)による試算賃料(いずれも実際支払賃料である。)の平均値を求めると、五万一、〇五七円となるので、右金額から百円未満を切り捨て五万一、〇〇〇円を、昭和五七年六月一日の値上げ時点におけるポプラケ丘コープ一号棟三〇六号室の相当賃料とし、これを基準としてその余の本件各建物の右値上げ時における相当賃料を、本件鑑定の示す本件各建物の個別的要因(階層、位置、契約日など)を比較する方法により、昭和五五年四月一日値上げ時点における賃料については、本件鑑定で採用している変動率四%によって減価する方法により、いずれも百円未満の端数を四捨五入して計算すると、別紙賃料計算書のとおりとなり、本件各建物における原告ら主張の値上げ額を上回ることが認められる。

一四  以上によれば、原告らの本件各建物に対する各賃料の値上げ額については、いずれも適正賃料の範囲内にあって相当であると認めることができる。従って、本件賃料の増額は正当であり、本件各建物から退去した者を除く、その余の被告らに対する原告らの賃料増額についての確認を求める請求は、相当として認容すべきである。

一五  請求の原因第一一ないし一三項記載の事実は、被告らにおいて明らかに争わず、かつ弁論の全趣旨によっても争っていないものと認められるので、これを自白したものとみなす。従って、被告加藤哲ほか六名の退去者については、別表記載の退去処理日に解約の効力が生じ、別表A欄記載の敷金につき、未払賃料などの支払いに充当されることになる。そこで、被告らに対する不足賃料(値上げ額との差額分)及び未払賃料(退去者に対する延滞賃料)を計算すると、別表C及びE欄記載のとおりであり、これに別表F欄記載の未払共益費から増額部分を控除したものを加え、これから退去者につき別表A欄記載の敷金を差し引くと、被告らは別表I欄(認容額)記載の各金員及びこれに対する別表H欄(付帯請求)記載の各起算日から完済に至るまで同欄記載の各利率(民法所定年五分又は借家法所定年一割)による遅延損害金を各原告らに対して支払うべき義務があるから、原告らの賃料及び未払共益費(ただし増額部分を除く)の給付を求める請求は認容すべきである。

一六  よって、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安田実 裁判官 清水篤 光前幸一)

〈以下省略〉

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